ホシナの投稿 XX
あるじの受け月
「これ読んでみろ」
「芥川賞と直木賞は読まなきゃダメだろ」
あるとき、あるじの鈴木さんに、伊集院静作「受け月」という直木賞受賞作の単行本を手わたされた。
誰かが良いという本や賞を獲った本は、どちらかというと敬遠するのだが、
このときは素直に一気に読んだ。読んでいたら、いつのまにか静かに涙が流れていた。
以来、伊集院静作の小説はすべて読んでいる。
静かで美しいことがらが、静かで美しい文によってつづられている。
さりげない大事なことが、胸の中のどこかに触れていく、そんな小説だと思う。
すすめられたから、というわけではないが、鈴木さんの文は、伊集院静の文に似ていると感じるときがある。
ひらがなが多く、漢字が少なめ。文が短め。もってまわった構文は使わない。
というところは確かに似ているかもしれないが、そこが似ていると思ったわけではない。
行間から何かが伝わってくるというか、書かれていないことが思い浮かんでくるというか。
短い文のシンプルなつながりの中で、言葉で書かれていないことまでもが沁みこんでくる、ということだろうか。
大事なことをしっかり書き、書かなくていいことは書かない。
文章の技術や言葉づかいではなく、姿勢や考え方、生き方が文になっているのだと思う。
受け月というのは、この小説で初めて知った言葉だが、上弦の細い三日月のことだった。
か細いのに、存在感があり、見えなくても月のまん丸さが伝わってくる。
行間が伝わってくるというのは、受け月のような文ということかもしれない。
ナニナニに似ている、などと言われるのは嬉しいことではないと思う。
決して、形が似ているということではなく、私が受ける印象のことなので、
鈴木さんにも伊集院さんにも、ご容赦を願うばかりだ。
hocna
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